知らない間に パーキンソン病・・・
パーキンソン病は「神経難病」として知られています.高齢化とともに増加し,後期高齢者では約1,000人に一人がパーキンソン病になると言われています.脳の中の「ドーパミン」が減少する病気ですが,放置すると数年で動けなくなる「身体」の病気でもあり,レビー小体型認知症に似た「認知症」を起こすことでも知られています.
診断と治療
パーキンソン病では “四徴” と呼ばれる症状,すなわち 振戦<手足のふるえ>・筋剛直<筋肉のこわばり>・寡動症<動きの減少>・姿勢反射障害 が現れ,少しずつ 社会生活を送ることが難しくなります.我々のような「神経内科専門医」にとっては その診断は難しくありません.また DaTSCAN や MIBG心筋シンチなどの新しい診断法も普及し,診断しやすくなっています.
一方,過去50年間に治療法が大きく進歩しました.お薬だけでなく,脳に電気を流す脳深部刺激療法,頭の表面から超音波を脳に浴びせて脳の活動を変える集束超音波治療(FUS)が実用化されています.そして 2026年には iPS細胞を用いた治療が承認されるなど,『治療可能な難病』に近づいていると言えるでしょう.
『隠れパーキンソン病』 Silent Parkinsonism とは・・・
診断・治療ともに進歩の著しいパーキンソン病診療ですが,「非脳神経内科医」の先生方や一般の方には,依然,扱いにくい病気のままかもしれません.パーキンソン病を発症しても気づかれずに何年も経ってしまうことがあるかもしれません.
実際,発病後も専門医の診断・治療を受けることなく,寝たきり状態になられたパーキンソン病の方がおられます.「寝たきりの患者さんを診てもらえますか」と依頼を受け,初めての診察で進行期のパーキンソン病だと判明する「隠れパーキンソン病」の方が散見されます.
診断名をお話しすると,患者さんやご家族は驚かれますが,診断する我々もとても驚きます.「どうして,こんなに悪化するまで診断されなかったんだろうか?」と.幸いなことに,隠れパーキンソン病の方々が パーキンソン病のお薬をお飲みになられますと,多くの場合,ある程度は元気になられます.しかし,もしも脳神経内科医の目に触れる機会がなければ,「原因不明の寝たきり患者」として診断や治療を受けることなく残りの人生をお過ごしになるかもしれません.専門医としては胸が痛むお話です.
手足の震えないパーキンソン病患者さんがおられます!
『パーキンソン病なら手足が震えるから,すぐに分かるだろうに』とお考えになる方がおられるかもしれません.確かに,パーキンソン病には“三徴候”,すなわち,手足が震え,動きが減り,筋肉が固くなるという三つの症状がある,と医学部で我々は教えられてきました.しかし,パーキンソン病患者さんの1/4の方々は ,元々, 『振戦 <手足の震え>』が無いんです!
やや専門的になりますが,パーキンソン病全体の25%を占める「AR型パーキンソン病」では,そもそも,手足が全く震えません.その結果,パーキンソン病だと周囲に気づかれず,「体力が落ち,動けなくなった老人」と思い込まれてしまう可能性があります.
「年のせいか,近頃,だんだんと動けなくなってきた」,「めっきりと 言葉数が減った」,「言葉をかけても返事がなく,認知症ではないかと心配している」,「顔が無表情になった…」.そんな方がおられたら,パーキンソン病かもしれないと疑ってみることが大切ですね.
また,一見,パーキンソン病とは関係がなさそうですが,「急にひどい便秘になった」,「寝言をよく言う」,「匂いが分からない」,などの症状がパーキンソン病の最初期の症状となることが明らかになっています.これらの特徴がある方は特に要注意です.
『隠れパーキンソン病』を疑われたら ぜひ,脳神経内科医にご相談ください.
追記
僭越ながら,2026年5月の第67回日本神経学会学術大会(横浜)にて『隠れパーキンソン病』に関する学会発表を行いました.大きな学会での発表は 2016年の米国神経学会(バンクーバー)以来,10年ぶりでしたので,少し緊張しました.
発表で申し上げたのは 2024年に開設した当クリニックの統計に基づく結果です: 我々の検討では 寝たきり患者さんの 3~5% の方が 進行した『隠れパーキンソン病』でした.裏を返せば,パーキンソン病になっても神経内科医の診断・治療を受けることなく病状が悪化し,ついには寝たきりとなる方が大勢おられるかもしれない,という解釈になります.
因みに,現代の日本には300万人以上の 寝たきり状態の方がおられるそうです.ということは,そのうちの10万~15万人が「隠れパーキンソン病」であり,正しく診断・治療も受けておられない可能性があります.
見過ごせないお話だと考え,ご報告申し上げた次第です. 在宅会 みんなのクリニック桂 院長 吉川 健治
